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同じ「ゲーム」でも。
- 森川さんは、これまでたくさんのボードゲームで遊ばれてきたと思うのですが、いちばん最初に遊んだゲームって覚えてらっしゃいますか?
- 森川さん
- 小さいときはね、それこそ『人生ゲーム』とかです。石原さんと遊ぶようになってからは、『グランドマスター(Grand Master)』とかじゃないかなぁ。
- 『グランドマスター』。
- 森川さん
- 戦ってグランドマスターを目指すカードゲームですね。『ミール ボーンズ(Mille Bornes)』っていうレースゲームのルールを応用したもので‥‥って、こんな話してもわかんないか(笑)。あとは、イギリスの『うさぎとカメ』。今は『ウサギとハリネズミ』になっているのかな。第1回SdJボードゲーム賞をとったゲームです。
- わぁ、それはすごい。
- 森川さん
- すごろくなんですけど、サイコロを使わないんですよ。後ろに戻った分、前に進める「にんじんカード」をもらえるというシステムだった。後ろに戻れば戻るほど「にんじんカード」がもらえるので、今度はそれを使って、ビューンと前に進むという。
- 森川さん
- 「にんじんカード」は後ろに戻る以外でも補充できるんだけど、後退することでいちばんもらえるんじゃなかったかな。
- 今でもボードゲームで遊ぶことはあるんですか?
- 森川さん
- 実は、今日も遊びます。
- そうなんですね!
- 森川さん
- 相変わらず、好きですね。ただ、新しいのはあんまり追ってなくて、古いゲームばかりやってます。
- ご自身でお持ちのものを。
- 森川さん
- はい。たいがい、ボードゲームにはまっている人はそうなっているんでしょうけど、この間数えたら、倉庫に段ボールで27箱ありました。
- 全部、ボードゲーム。
- 森川さん
- そう。その中に、オリジナル版の『ハーベスト』も埋もれてます。
- どのくらいの頻度で遊んでいるんでしょう?
- 森川さん
- ずいぶん減りましたけど、未だに好きは好きで。ずっとコンピュータゲームをつくっていますが、どっちのほうが好きかと聞かれたら、ボードゲームのほうが好きですね。
- はー、そうなんですね。森川さんは、『がんばれ森川君2号』や『アストロノーカ』といったコンピュータゲームをつくられていますが、ボードゲームとコンピュータゲームの違いをどのように感じられていますか?
- 森川さん
- まず、つくりやすさが全然違いますよね。コンピュータゲームは下手すると、億単位になってしまう。けど、ボードゲームは数百万くらいだから、だったら「えいやぁ」と‥‥。
- 冒険はしやすい。
- 森川さん
- コンピュータゲームは、制作コスト上、どうしても市場マーケティングの事情も入れ込んだ内容にしないといけないんですよね。そうすると、自由度が減ってしまって、だいたいジャンルが決まっちゃうんですよ。世界観が変わったとか、描画がきれいになったとか、変化としてはそれくらいで、遊びとしてすごく変わったのかというと、『ドラゴンクエスト』のころからそんなに変わってない。
- 森川さん
- なので、「よくそんなこと思いつくな」「こんな遊びがあるんだ」っていう発見とか驚きは、圧倒的にボードゲームのほうが多いんですよ。
- いまは、自主製作でつくる人も増えていますし。
- 森川さん
- すっごいですよね、いまね。
- ボードゲームとコンピュータゲームでは、つくるときのアプローチというか、ゲームとしての考え方も異なると思うのですが、そのあたりはどうでしょう?
- 森川さん
- そうですねぇ‥‥、ボードゲームは基本的に複数人でやる。だから、ルールを使ってコミュニケーションをとるのがたのしい、というゲーム性ですよね。勝ったり、負けたり、疑ったり、協力したりっていうコミュニケーションが主体になって、それを盛り上げるためにルールがある。逆に、コンピュータゲームは基本的には1人で遊ぶものです。まぁ、今はマルチプレイとかありますけど、それも対戦するだけで、やっぱりその人だけがたのしいものだと思います。この違いはとても大きい。
- 体験として別物ですね。
- 森川さん
- ボードゲームのルールをコンピュータゲームに移植するというのはけっこうあるんですけど、やっぱりつまらないんですよね。
- そのままルールを移植してもダメ。
- 森川さん
- インターネットでつながっていても、やっぱりおもしろさが大きく欠落するんですよ。その「欠落しているものがなんなのか」は、ちょっとわからないんですけど。でも、なにかしら間違いなく欠落しているんですよ。
- うーん、とても俗な表現をすると「温かみ」とか?
- 森川さん
- そうですね、対面しているときの人の表情とか仕草という、言葉になっていない情報がいっぱいあるんで、ネットワークを通すと、それはごっそり抜け落ちますね。
- はい。
- 森川さん
- あとは、物質性ですよね。「サイコロを振る」という行為ひとつとっても、自分の手を使ってころがすのと、ボタンひとつを押して結果が出るのって、感じ方が全然違うじゃないですか。乱数なんで、自分の手で振っても、ボタンを押しても、機能的には一緒なわけですけども。
- 機能としては同じ‥‥ですが、やっぱり結果の捉え方は違う気がします。
- 森川さん
- 祈りながらサイコロを振るみたいなことが、うまく移植できないですよね。コンピュータのボタンを押すときにはもう次の出目は決まっているわけだから、別に祈ろうが関係がないというか。
- 自分の身体をつかったアクションは、その結果を自分が招いたものとして自然と受け入れられますが、コンピュータが間に入ると、そのせいにしちゃいたくなるのかもしれない。と、聞いていて思いました。
- 森川さん
- そうですね、そういう身体性がごそっと抜けちゃいます。
- はぁー。あの、森川さんの会社「モリカトロン」では「エンタメAI開発」を主な事業としてされていらっしゃいますよね。
- 森川さん
- はい。
- AIとボードゲームって、なにかつながるところはあるんでしょうか?
- 森川さん
- 『ガイスター』や『どうぶつしょうぎ』のルールを学習してプレイヤーの1人になることは、すでにやってます。浅草で開催された、すごろくやのイベントでもAIと対戦するブースを出しました。
- 森川さん
- 『ガイスター』のAIは、モリカトロン内でテストプレイしたときはすごく強くて、かなりの自信をもって、イベント当日を迎えました。ところが、お客さんみんなすごく強くて、AIが負けまくりまして。テストプレイをした、うちの開発スタッフが弱かった(笑)。
- (笑)。
- 森川さん
- AIに勝ったら、すごろくやのクーポンかなにかを渡していたので、(すごろくや代表の)丸田くんに「そんなに大盤振る舞いしちゃダメですよ」とかいわれて(笑)。やっぱり、ボードゲームファンの人たちっていうのは強いですね。
- 森川さん
- ‥‥まぁ、あとは簡単なゲームだったら、AIでもつくることができるかもしれませんね。そういう試みはすでにはじまっていると思いますよ。
- 人間では思いつかないようなルールが、AIによってつくられていくかもしれない。
- 森川さん
- うん、あの、ほとんどおもしろくないんですけどね。ルールの整合性をとるところまではわりと簡単なんですけど、それがはたしておもしろいかどうかといわれたら‥‥。
- 人間がなにをおもしろいと思うかは、まだAIのほうで判断できないんですね。
- 森川さん
- その学習が足りてないので、チューニングができないんですよね。ただ、その学習はとても難しくて、ボードゲームのおもしろさの多くの部分は、非常に不思議というか、まぁ、コミュニケーション、その場の「空気」みたいなものなので‥‥。
- なるほど‥‥。
- 森川さん
- まぁ、AIっていうのはいまはパソコンに入っていますが、この先は間違いなくロボットに入ってくることになります。AIがロボットという物理的な身体性をもったときに、ちょっと変わってきますよね。彼らはカードを触りながら悩んだり、目を泳がせたりすることができますから。
- AIですが、対面して遊んでいる感覚になりますね。そういう、感情を伴うような行為の学習もできるんですか?
- 森川さん
- やろうと思えばできます。感情解析はものすごく進んだので。
- 今回お話を伺う前に、森川さんが『がんばれ森川君2号』のAIについて書かれた論文を拝読したんですが、キャラクターの「森川くん」が、ゲームに出てくる果物やスイッチといったオブジェクトのにおいを嗅いだり、叩いたりすることで、その対象の「印象」を学習するというのに衝撃を受けました。「AIが印象を判断するんだ!」って。しかも、それを約30年前にされていたという。
- 森川さん
- 「ニューラルネットワーク」といって、人の脳をモデルにしたAIを使ったんですよ。でも、全然誰からも評価されなかった(笑)。やっと、ディープランニングでAIが注目されましたが、30年かかりました。
- 先を行き過ぎましたね。
- 森川さん
- 先かどうかはわからないけど、完全にタイミングは外しましたよね。当時、コンピュータゲームでは「100時間、たっぷり遊べます」というのがセールスになる時代だったので、「AIが勝手に学んで行動します」っていうゲームは、「なにいってんの?」という感じでした。
- いまでこそ、スマホアプリで放置するゲームってありますけども‥‥。
- 森川さん
- 30年前はね、もう全然ダメだった(笑)。
- やっと『がんばれ森川君2号』が理解される時代になりましたね。ちなみに、今後モリカトロンからAIを使ったボードゲームが出るという可能性はありますか?
- 森川さん
- もちろん、なくはないですね。ボードゲームもつくってこそいませんが、アイディアレベルのものはあるんですよ。
- わ、そうなんですね! では、「いつか出るかもしれないなぁ」くらいの気持ちで、たのしみにしています。
- 森川さん
- ははは、そうですね。ありがとうございます。
