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「遊び」のある遊び
- 今回は『ドロッセルマイヤーさんのさんぽ神』を中心にお話しを伺いたいのですが、こちらは「ゆるゲーシリーズ」の一つということで、まずは、このシリーズについてお聞かせください。
- 渡辺
- ゆるゲーシリーズを思いついた直接のきっかけは、「これはゲームなのか?展」(※)だったんですよね。この展覧会には、知り合いも多く参加していたんですが、かなり大きな刺激をもらいましたね。
※これはゲームなのか?展…2026年の2月に第3回が開催された、複数のゲームデザイナーがつくった実験的なゲーム作品を展示して、それらを試遊できるという企画展
- それこそ、1つのシリーズが生まれるほどの。
- 渡辺
- はい。展示の内容ももちろん面白かったんですが、僕にとっていちばん大きかったアイディアは、そのコンセプトというか‥‥「枠」の存在でした。
- 枠、ですか。
- 渡辺
- 「これはゲームなのか?」という枠のなかで展示することによって、一つ一つの作品にも方向性が生まれていたし、観客も「これはゲームかな? ゲームじゃないかな?」というスタンスで見に来るという方向性が生まれていた。作り手にも受け手にもベクトルが生まれるという「枠組みがつくる力」を、そこで強く意識したんですよ。
- 渡辺
- ボードゲームをつくるにしても、それまでの僕は、その作品一つ一つで完結するような作品しかつくっていなかったんですよね。でも、一つの「枠」をもったシリーズでつくっていくと、今までとはまったく違う、もっと大きな「流れ」のようなものができるのではないか。しかも、これは作家というよりも、僕のようなプロデューサーという立場だからこそできる試みかもしれない、とも思いました。そこから生まれたのが、「ゆるゲーシリーズ」と「Kaiju on the Earth シリーズ」です。
- 対極に位置するシリーズを同時期にはじめられたんですね。
- 渡辺
- はい。で、「ゆるゲー」のなにが「ゆるい」のかというと、プレイヤーごとの好みにあわせて自由に遊べるということなのですが、それはルールに「遊び」があるということで‥‥。「遊び」のある遊びというか‥‥わかりにくくてすみません(笑)。
- その「遊び」は、車のハンドルなどに施されている「遊び」のことですね。ルールに余白があるというか。
- 渡辺
- そう、余白があって、わりと自由に遊び方をアレンジできるものがいいかなと。そういう、スーパーカジュアルゲームのブランドをやってみよう思いました。
- それで、つくられたのが『法廷気分』ですね。
- 渡辺
- はい、いちばん最初につくったのが『法廷気分』なんですが、その後のゆるゲーシリーズのフォーマットからいうと、『法廷気分』はまだあんまりゆるくない方というか、比較的ふつうのゲームとして成り立っちゃってるんですよね。
- ほかのゆるゲーシリーズと同じく会話ベースのゲームではありますが、得点制で、最多得点者が勝ちというルールになっていますよね。パッケージも箱型で、カードやコインなどの内容物もあります。
- 渡辺
- 後のゆるゲーシリーズでメインになっていくミニ本型のゲームは、はじめはこの箱型商品のおまけとしてつくったんですよ。ミニ冊子として最初につくったのは『なぞなぞ気分・青』なのですが、これはオーヤマゲームの大山功一さんがカード状でつくって花見の余興として持ってきていたのを、僕が「これは超いい! おもしろいから商品化しましょう!」っていって、つくらせてもらったものなんです。
- 渡辺
- でも最初、大山さんは「こんなの売れないんじゃない?」と、ちょっと渋って…というか、遠慮されていました。なので単体商品として売るんじゃなくて、グリコみたいに箱の上に「おまけ」としてくっつけて、セットとして売るのはどうかと提案して、やっと実現しましたね。そのときに、バラバラのカードではなくミニ本にして、「上の句」と「下の句」をミニ本の前半と後半に分けて綴じればいいと考えていました。
- ミニ本のアイディアは早い段階からあったんですね。
- 渡辺
- そうですね。いかに手軽にするか? という意図で、カードだと、シャッフルしたり、二つの山札をつくったりするといった手順の一つ一つが、なんというか、「さあゲームをするぞ」という遊ぶときに気合いを入れさせてしまう。普通のゲームであればそれがむしろよいことなのですが、ゆるゲーではそういった手順はできるだけ減らし、ここにあるものをペラペラとめくれば遊べる、くらいがいちばんいいんじゃないかと思っていました。
- カード状よりも、だいぶ気楽に遊べますね。
- 渡辺
- ただ、やはりこれはちょっと雑な考え方でもあって、カードだとシャッフルできるけど、ミニ本だと綴じられているため、何度も遊ぶうちに「上の句」と「下の句」のお題の位置を覚えてしまうんですよ。
- お題のランダム性を重要視するのであれば、カード状のほうがいい。
- 渡辺
- ゲームデザイナーはそう考えるのがふつうなので、はじめは大山さんもミニ本型はどうだろうと懸念されていたんですが、僕は今回はそこをチャレンジすべき商品だと思っていたので、「僕を信じてください! これでいいと思います!」といって説得しました。蓋を開けてみたら、やっぱりなんだかんだ利便性が勝ったんですよね。そもそも、そんなに厳密に遊ぶものじゃないんですよ、というメッセージにもなりますし。
- そうですね、覚えて有利になるものでもないですから。
- 渡辺
- ゆるさをコンセプトにしたことや、あくまで「おまけ」なので‥‥という言い訳も機能して、普段はナシのものがアリになった結果、通常ではつくれないものが生まれたなぁ、と思いました。『法廷気分』自体もけっこう売れて、たくさんの方に遊んでもらえましたが、実はおまけの『なぞなぞ気分・青本』のほうが後につながる新鮮な商品になっていたんですよね。
- 今までにない形ですもんね。
- 渡辺
- それで、おまけの『なぞなぞ気分・青本』を単体でも売ってほしいという声が多くあったんですが、せっかくだしということで、なぞなぞの中身を丸ごと入れ替えた『なぞなぞ気分・赤本』を出したところ、これがまた好評いただいて。結局『なぞなぞ気分・青本』も単体で販売することになりました。そういったことをしているうちに、今ではシリーズの柱になってしまいましたね。
- 『法廷気分』や『なぞなぞ気分』といったものは、会話によるゲーム体験になっていますが、会話というのは余白のある遊びとフィットしますよね。
- 渡辺
- そうですね。ゲーム側が提供する要素をなるべく少なくしつつ、遊びに広がりをもたせようとすると、極力プレイヤー側がもっているリソースを利用するこべき、ということになります。その最たるものは、会話ですよね。あとは『ガイスター』みたいな心理戦とか。
- 自由に遊んでいいとわかりつつ、このゆるさを難しいと感じる人もいますよね。正解がないと、どう会話を進めてよいのかわからないという‥‥。
- 渡辺
- たしかに『なぞなぞ気分』とかは、そういう意味でちょっと人を選ぶところもあると思います。やっぱり、ちょっとだけウィットネスが必要になるので。というか、大人同士でやると、関係性次第ではハードルがあがるんですよね。たぶん子どもと一緒だと、そんなに難しく感じられないと思いますよ。
- たしかに。大人同士だと大喜利っぽくなるというか。
- 渡辺
- そうなんですよ、でも、それは本来の『なぞなぞ気分』の遊び方ではないんです。これはあくまで「なぞなぞ」であって大喜利ではありませんって、当時からずっといっていますね。
- のちに、『大喜利神』を出されますし。
- 渡辺
- そうそう。逆にあれは、大喜利カフェ「ボケルバ」とコラボしてつくったもので、本当にガチの大喜利ゲームです。『なぞなぞ気分』は、別におもしろいことをいわなくてもOK、というのがポイントなんですよ。で、そこからさらにハードルを下げた遊びが『さんぽ神』です。
- シリーズのなかで、『さんぽ神』がいちばん売れているんでしょうか?
- 渡辺
- 今では販売数でも知名度でも、圧倒的に『さんぽ神』がシリーズの代表作になっていますね。『さんぽ神』がヒットしたのは、にじさんじのVTuber・月ノ美兎さんが遊んでくれたのがいちばんのきっかけだったと思います。でもその前にはオモコロさんが記事で何度も取り上げてくれたり、同時多発的にいろいろな方がおもしろがってくれたんですよ。僕としては、かなり予想外のヒットだったんですが。
- そうなんですか?
- 渡辺
- 『さんぽ神』は「自由に遊べる」という意味でいえばゆるいけれど、お客さんへ要求する行為としてはめちゃくちゃハードル高いですからね(笑)。「重ゲー(※)」と呼ばれるボードゲームで遊ぶよりも、よっぽど時間がかかったりしますから。
※重ゲー…ルール量や戦略性が多く、プレイ時間も長めの重量級ボードゲーム
- 「フラッと宿泊してみよう」というお題には、びっくりしました(笑)。
- 渡辺
- それは、なかでもいちばん重いやつですね(笑)。だから、『さんぽ神』をつくったときには、だいぶアヴァンギャルドな作品だと思っていて、まあ僕自身が意義ある試みだと思えるからそんなに売れなくてもいいやって感じだったんですよ。
